ジュゴンはインド洋や西太平洋に分布する海洋哺乳類で、本種のみでジュゴン科を構成している。 かつてはインド洋・西太平洋域に広く分布していたが、現在では分布域が減少していて、インド洋ではモザンビーク北部、マダガスカル北部辺りから紅海、ペルシャ湾の一部、スリランカとインド西海岸、アンダマン海からインドネシアを経てオーストラリア西海岸などに分布している。 西太平洋では、日本から東シナ海、南シナ海を経て、アラフラ海や珊瑚海、メラネシアなどに分布していて、国内では南西諸島で見られるが、台湾近海ではすでに絶滅してしまっているとも言われている。 体はクジラ類に似た紡錘形で、上唇は非常に厚く、先は平らで丸い形をしている。 また、耳の穴は小さく、目も小さい。 牙は雌雄共にもっていて、成熟した雄では外からでも見える。 前肢は鰭状になっていて爪はなく、後肢は退化していて外からは見えない。 尾の先は湾入した尾びれになっていて、毛は全身にまばらに生えている。 体長はふつう3mを超えることはないが、大きいものでは体長4m、体重は1トンのものが知られている。 体色は灰色のほか、茶色や青みを帯びた灰色のような色合いで、腹側は淡く、体に斑や縞などは見られない。 一見するとマナティーに似ているが、マナティーの尾の先は丸くなっているが、ジュゴンの尾の先は湾入して三日月状になっている。 ジュゴンはサンゴ礁のある海域に生息していて、餌となる海草の多いところで生活している。 水深35mを超えるところまで潜ることもあるが、ふつうは水深10m位までの浅いところで生活していて、採食のため、沿岸に近いところに生息している。 また、ジュゴンはマングローブの生える汽水域などでは見られるが、マナティーとは異なり、ほとんどを海で生活していて、純淡水域に入り込むことはない。 ふつうは単独や母親と子どもからなる小さな群れで生活しているが、時には200を超える群れをつくることもある。 しかし、そのような大きな群れをつくることは昔のことで、生息数が減少している現在では、そのような大きな群れをつくることは極めて稀で、大きな群れを支えていくだけの餌場を維持していくこともできない。 聴覚や嗅覚は優れているが、視覚は鈍い。 また、性質は穏やかだが神経質で、人が近づくとすぐに離れていく。 潜水時間は1~10分程の間で、泳ぐときは、尾びれをゆっくりと上下に動かして泳ぐ。 速度はふつう3~3.6km/h程で、急ぐときには8km/h、危険が迫ったときなどは20km/h程だと言われているが、速い速度で泳ぐことは長続きしない。 日中に活動するが、昼間は休んでいることが多く、夕方などに活発に採食する。 ジュゴンはほぼ完全な草食性で、主にアマモ類などの海草を食べ、これらが少ないときは海藻なども食べる。 多毛類や貝類、ホヤやクラゲなども食べるが、効率よく海草を消化をするため、腸は長く、45m程もある。 平らで大きな口は大量の海草を食べるのに適していて、体を前進させながら、海底などに生える海草を口で根元から掘り起こして食べてしまう。 そのような採食の仕方から、ジュゴンが海草を食べた後には、蛇行した浅い溝状の「はみ跡」が残される。 また、大きな季節回遊などは行わないが、生息地での海草が災害などによってなくなってしまうと、餌を求めて長い距離を移動することがある。 決まった繁殖期は見られず、雌は2.5~7年程の間隔で繁殖する。 繁殖形態は一婦多夫で、雌は妊娠期間13~15ヶ月程の後、1産1子を出産する。 出産は浅場で行われ、母親はすぐに子どもを水面に押し上げ、呼吸をさせる。 生まれたばかりの子どもの体重は20~30kg、体長は1~1.2m程で、14~18ヵ月程の授乳期間がある。 乳頭は胸に一対あり、母親は体をなかば直立させ、頭を水面上に出し、前肢で子どもを抱きかかえるようにして授乳する。 また、ある程度成長すると、子どもは母親の胸元について、泳ぎながら授乳されることもあるとされている。 ジュゴンの子どもは、生まれたらすぐに海草を食べることができると言われているが、長い授乳期間は、成長速度を早めていると考えられている。 母親は子どもから離れることなく、寄り添うように育児を行い、子どももまた母親から遠く離れることはない。 早ければ雌雄共に6年程で性成熟し、この頃には母親の元から離れていくが、雄で6~12年、雌では6~17年と性成熟には幅があり、高緯度に分布しているものほど遅くなると考えられている。 寿命は長く、野生下では50年、時に70年を超えるものも知られている。 しかし、他の哺乳類などと違い、ジュゴンの飼育下での寿命は自然下よりも短いと言われている。 平均すると10年程度(長いものは30年程の飼育期間がある)とも言われているが、この理由のひとつは、ジュゴンが主食としている海草などが、飼育下では入手が困難なためだと考えられている。 外敵はシャチや大型のサメ、ワニなどが挙げられるが、人による狩猟の被害も大きい。 古くから肉や皮、油などを目的とした狩猟が行われ、近年では沿岸開発による餌場や繁殖環境の消滅のほか、定置網や底刺し網などによる混獲も生息数を減少させている。 現在でもおよそ40近い国の沿岸域に分布しているが、かつての分布域は分断されていて、現在では限られた海域のみで見られる。 最大の分布地はオーストラリア・西オーストラリア州のシャーク湾とクイーンズランド州のモートン湾で、アラビア湾がそれに次いでいるが、全体としては生息数が減少している。 現在、ジュゴンは国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストに絶滅危惧種として指定されているが、ジュゴンなどの海牛類は泳ぐのも遅く、外敵に対する防御手段がないこともあって、更なる生息数の減少が心配されている。 国内でも環境省のレッドリストで絶滅危惧IA類(CR)に指定されているほか、国の天然記念物にもなっているが、ジュゴンは繁殖率も低く、やはり生息数の減少が心配されている。 ところで、ジュゴンやマナティーは「人魚」のモデルだと言われているが、これは母親が水面上に頭を出して、子どもに授乳させている姿から想起されたものと言われている。 一方、ヨーロッパにジュゴンが紹介されたのは16世紀の「大航海時代」以降のことであるから、先に人魚伝説が確立されていて、そのイメージに合わせて、ジュゴンやマナティーが結び付けられたとも言われている。 海牛目の動物へ / このページの先頭へ |
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ジュゴン