ニホンカモシカは国内に分布している野生のウシ科の中では唯一の動物で、日本の固有種とされている。 江戸時代に書かれた和漢三才図会のほか、古くは日本書紀や万葉集にもその記述が見られ、単にカモシカとも呼ばれ、国内では馴染みのある動物としても知られている。
ニホンカモシカの分布域・生息環境 ニホンカモシカは北海道を省く山地の森林地帯に生息していて、ふつうは低地や開けた環境で見られることはない。 近年は個体数が減少していて、中国地方のものは、既に絶滅していると考えられている。 ニホンカモシカの大きさ・形態 ニホンカモシカはずんぐりとした体つきをしていて、四肢は短く、ウシよりもヤギに近い感じがする。 肩高は65~75cm程で、尾は短いがフサフサとしている。 目の下には眼下線をもっているが、蹄の間にも蹄間線があり、臭いのある粘液を出す。 角は雌雄共にもっていて、二ホンジカのように毎年生え変わることはなく、一生の間伸び続ける。 しかし、角の長さは8~16cm程度と短く、後方にやや湾曲している。 体毛は密生しているが、毛色は生息地によって異なり、ほぼ白色に近いものから、灰色や茶色、茶褐色、黒褐色、またオレンジ色のようなものも見られ、個体差も多い。 一般に、北のものほど毛色は明るいが、背中の正中線はいずれも黒っぽい色をしている。 ニホンカモシカの生態・生活 ニホンカモシカは本州、四国、九州の森林地帯に生息していて、標高1500~2000m程の山地で多く見られる。 時に低地で見られることもあるが、岩場や崖地、斜面などを好み、平坦で開けた環境では見られない。 普段は単独で生活しているが、稀に雌雄のペアでいることもある。 また、ニホンカモシカは定住性の動物で、縄張りをもった生活をしている。 縄張りの広さは100~160平方km程度とも言われているが、広さは生息環境や食料事情などによって幅がある。 縄張りは眼下線や蹄間線から出す粘液を木の幹や岩などにこすり付けて主張されるが、この縄張りは同性間では重複することはない。 縄張りの広さは雄の方が広く、普通は雄の縄張りは雌の縄張りの一部と重なっていて、複数の雌の縄張りが含まれていることもある。 日中は洞窟や岩陰などで休んでいることが多く、主に朝夕に活発に活動するが、ニホンカモシカは夜間も活動することが知られている。 草食性で、草や木の葉、木の実や樹皮などのほか、果実や花なども食べる。 落葉期には低木の冬芽などを食べ、冬の積雪時には、前足で雪をかき分けて食べ物を探し出す。 糞は決まった場所で行う習性があり、大きな糞場をつくることもある。 また、シカよりも警戒心も薄く、性質はおとなしい。 外敵はニホンツキノワグマが挙げられるが、ニホンカモシカの足の蹄は広がるようになっていて、急峻な山岳地帯でも素早 く動くことができる。 しかし、クマによる捕食の危険よりも、近年はニホンジカの増加による生息域の圧迫や食料の減少などのほか、イヌによる害も一部の地域で指摘されている。 また、春先に山の中を歩いている時、まだ肉片のついたニホンカモシカの死骸を見つけたことがあり、これは冬場の雪の中で足を滑らしたり、雪崩にあったものだろうと思ったが、生後1年を生き延びる子どもは半数ほどとも言われている。 ニホンカモシカの繁殖・寿命 ニホンカモシカの繁殖期は9~11月頃で、繁殖はふつう一夫一婦で行われる。 しかし、雄の縄張りの中に複数の雌の縄張りが含まれている場合、一夫多妻になる傾向であることも観察されている。 雌の妊娠期間は210~220日程で、1産1~3子、普通は1子を出産する。 育児は雌によって行われ、子どもは半年程で離乳し、1年程度で独立する。 その後も、子どもは母親の元に留まるが、雌雄共に2.5~3年程で性成熟し、この頃には分散していく。 野生での寿命は10~15年程度と言われているが、短いものでは5~6年とも言われている。 しかし、飼育下での寿命は長く、20~30年程の寿命をもっていると考えられている。 ニホンカモシカの保護状況・その他 ニホンカモシカは、アオシシやアオ、カモシシやシシなどとも呼ばれることもあり、かつては食料や毛皮を目的した狩猟も行われていたが、近年の生息数は著しく減少している。 現在、ニホンカモシカは国の特別天然記念物に指定されていて、狩猟などは禁止されているが、本州でも中国地方には既に生息していないと言われている。 また、分布域内であっても、地域によっては固体数が減少傾向にあって、九州地方のニホンカモシカなどは、環境省のレッドリストに「絶滅のおそれのある地域個体群(LP)」として記載されているほか、自治体によっては絶滅寸前種などに指定される状況になってしまっている。 しかし、その反面、生息地の減少などから低地の人里近くにも現れ、農地への食害などの問題が発生している地域もある。 |
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