ニホンジカは国内では馴染みの深い動物で、国内でニホンジカと言えば、普通は日本国内に生息するシカを指して使われている。 しかし、二ホンジカは東アジアに広く分布していて、幾つかの亜種が知られている。
ニホンジカの分布域・生息環境 二ホンジカは、「ニホン」と名前についているが日本の固有種ではなく、ロシア極東地方や中国東北部、朝鮮半島や台湾、ベトナムなどに至る東アジアに広く分布している。 地域によって体の大きさなどが異なっていて多くの亜種があるが、国内のものもキュウシュウジカ、ホンシュウジカ、エゾシカなどの幾つかの亜種に別けられている。 いずれの二ホンジカも低地から山地の森林や疎林などに生息しているが、草原や湿地帯などのほか、耕作地周辺や人里近くにも生息している。 ニホンジカの大きさ・特徴 二ホンジカは平均するとアクシスジカと同じほどの大きさだが、地域や亜種によって体の大きさにはかなり変化がある。 どの地域のものでも雄の方が体が大きいが、基亜種であるキュウシュウジカの平均した体長は80~160cm程度、体重は50~90kg程だが、北方のものほど体が大きく、北海道に生息するエゾジカでは体長180cm、体重は140kg程になる。 一方、屋久島や慶良間諸島などに分布するものは、雄の平均体重でも30~40kg程度と言われている。 また、もっとも大きな亜種・マンシュウジカでは、雄の体重は70~110kg程で、大きな雄では160kg程に成長するが、エゾジカの大きな雄も、体重が170~200kg程のものが記録されていると言われている。 角は雄だけがもっているが、この角は毎年3月頃に抜け落ち、4~5月にかけて袋角が生えた後、繁殖期がはじまる9月頃には立派な角が完成する。 この角は枝角で、年を重ねると共に枝数を増し、3~4年程で3尖から4尖になるが、二ホンジカでも、ヘラジカのように角が手のひら状に広がっているものも見られる。 また、角の長さは30~45cm程だが、中には60cmを越える見事な角をもつものも見られる。 毛色も地域によって差があるが、夏ではふつう茶色や茶褐色、赤褐色や黄褐色などの地に白斑が散在していて、その様子は「鹿の子模様」と呼ばれている。 一方、冬では灰褐色に変わり、ふつうは白斑も消えてしまう。 ニホンジカの生態・生活 ニホンジカは森林地帯や疎林、草原などに広く生息しているが、人里近くや耕作地周辺、市街地の郊外などにも姿を見せることがある。 熱帯林から落葉樹林、寒帯草原や湿地帯など、多様な環境に適応していて、標高1800m程の高地にも生息している。 しかし、いずれも森林や疎林などの近くから完全に離れた生活をすることはない。 繁殖期以外は雌雄で別々の群れをつくっていて、雌の群れにはその子どもたちが含まれているが、雄は単独で生活しているものも見られる。 昼夜共に活動するが、日中は森林内で休んでいることが多く、主に早朝や夕方に活動する。 また、人との接触が多いところでは夜行性になりやすい。 草食性で草類や木の葉、木の実、果実などを採食するが、餌の乏しくなる冬季には樹皮や落ち葉、菌類なども食べる。 また、シイタケやマツタケなども食べるほか、イネやトウモロコシなどの農産物も食べるので、しばしば農業や林業などに害を与えることもある。 行動範囲は食糧事情や季節によって変化するが、夏の雄の行動範囲は0.2~1.2平方km、平均すると4.7平方km程度と言われている。 駆けるのは速く、危険を感じたりすると3m程の幅で飛び跳ねるようにして逃げるが、追われたときなどは、その幅は6m程にも達すると言われている。 跳躍力にも優れ、1.7m程の高さなら飛び越えることができる。 性質は一般におとなしいが警戒心も強く、山道などで見かけても、すぐに逃げて行ってしまう。 山地での動きも敏捷で、樹木の間や谷川沿いの岩場などでもすばやく駆け抜けてしまう。 また、ニホンジカは泳ぎもうまく、海で12km程を泳いだという報告もされているが、国内の瀬戸内地方などでも海を泳いでいるのが目撃されている。 外敵にはトラやオオカミ、ヒマラヤグマなどがいるが、外敵に追われると、時には川などへ逃げ込んだりすることもある。 ニホンジカの繁殖・寿命 二ホンジカの繁殖期は秋季の9~11月頃で、この時期の雄は雌をめぐり、角を突き合わせるなどして激しく争う。 勝ち残った優位な雄は縄張りをつくり、多くは10頭程の雌とハーレムをつくる。 繁殖はふつう一夫多妻で行われるが、時には雌も複数の雄と交尾することが観察されている。 雌の妊娠期間は30~33週程で、春には1産1子、稀に2子を出産する。 生まれたばかりの子どもの体重は4.5~7kg程で、体には白い斑がある。 また、出産はふつう群れから離れた茂みや藪の中で行われ、雌は授乳の時だけ子どもの元を訪れる。 生後1~2週間ほどで母子ともに群れの中に入って行き、子どもは長くても10ヶ月ほどで完全に離乳する。 雌雄共に16~18ヵ月程で性成熟し、雌はその後も出生した群れに残ることが多いが、雄は性成熟する頃には群れを離れていく。 飼育下での二ホンジカの寿命は15~18年程度と言われているが、25年を超えたものも知られている。 ニホンジカの保護状況・その他 現在のところ二ホンジカの個体数は安定していると考えられていて、絶滅の恐れはないとされている。 しかし、二ホンジカはかつては中国に最も多く分布していたと言われているが、長く続いた乱獲や近年の開発などにより、分布域は断片化していて個体数も減少している。 韓国やベトナムでは既に絶滅しているとも言われていて、現在広く分布しているのは日本国内だけになってしまっている。 また、国内に分布しているニホンジカはツキノワグマ以外にオオカミやヒョウといった外敵がいないため、地域によっては個体数が増加し、農作物などへの被害が出ているところもある。 しかし、一方では島嶼部に生息していたものなどは、人の手が入ったために絶滅した地域もあるほか、外来種であるキョンが飼育施設から逃げ出して定着している地域などでは、ニホンジカとの競合も懸念されているなど、複雑な状況になっている。 ニホンジカはアメリカ合衆国やオーストラリア、ニュージーランドなどの他、イギリスやフランス、デンマークなどのヨーロッパの一部にも狩猟目的などで移入されているが、それらの地域でも食害などの問題が起こっている地域もある。 尚、二ホンジカには多くの亜種が知られているが、概ね次のような亜種が挙げられている。 Cervus nippon nippon (Japanese Sika Deer・Sika Deer / キュウシュウジカ) ニホンジカの基亜種で、四国や九州地方に分布 C. n. aplodontus (North Honshu Sika / ホンシュウジカ) 日本の本州に分布する亜種だが、兵庫県辺りを境にして東西で遺伝的系統が分かれていると言われていて、中国地方に分布するものは基亜種と同種とも考えられている C. n. grassianus (Shansi Sika) 中国山西省に分布する亜種 C. n. keramae (Ryukyu Sika / Kerama Sika) 琉球列島の慶良間(ケラマ)諸島に分布するが、江戸時代に九州から移入したとされている C. n. kopschi (South China Sika・Kopschi Sika / コプシュジカ、チャンシージカ) 中国南部に分布 C. n. mandarinus (North China Sika) 中国北部および東北部 C. n. mantchuricus (Manchurian Sika / マンシュウジカ) 中国北東部、朝鮮半島、ロシア極東地方などに分布している亜種で、亜種の中ではもっとも体が大きいと言われているが、韓国では絶滅しているとも考えられている C. n. pseudaxis (Viet Namese Sika・Tonkin Sika / ベトナムジカ) ベトナム北部に分布する亜種だが、既に絶滅しているとも考えられている C. n. pulchellus (ツシマジカ) 九州対馬に分布するが、ホンシュウジカと同亜種とする意見もある C. n. sichuanicus (Sichuan Sika) 中国西部 C. n. taiouanus (Formosan Sika Deer・Taiwan Sika / タイワンジカ、ハナジカ) 台湾に分布する野生絶滅種で、元来の詳しい分布域などは不明 C. n. yesoensis (Hokkaido sika / エゾシカ) 北海道に分布 上記のほか、ホンシュウジカやエゾジカの角が4本に分かれるのに対して、屋久島に分布しているヤクシカ(ヤクジカ)の雄の角はふつう3本に分かれていて別亜種・C.n.yakushimaeとされる一方、ウスリー地方に分布するC. n. hortulorum(ウスリージカ)などは交雑が強く指摘されていて、亜種としては不確実とされている。 また、種子島の沖にある馬毛島に分布するものもマゲシカ(マゲシマジカ・C. n. mageshimae)として別亜種とされることもあるが、分類ははっきりしないままで、ニホンジカの亜種の多くは未だ研究過程にあるとも言える。 尚、北東アジアにはアカシカの同属であるアメリカアカシカも分布していて、ニホンジカとは近縁とされているが別種である。 |
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