ヘラジカは北半球の寒冷地に広く分布していて、最も大きなシカとして知られている。 名前のように、雄の角は手のひら状に広がり、繁殖期の頃には大変見事なものになる。
ヘラジカの分布域・生息環境 ヘラジカは北半球の寒冷地に広く分布していて、ユーラシアではスカンジナビア半島からポーランド、チェコ、ウクライナなどを経て、カザフスタン北部や中国北部、モンゴル北部やロシアのシベリア地方まで分布している。 北アメリカでは、アラスカとカナダの大部分からアメリカ合衆国との国境のすぐ南まで分布しているが、ローキー山脈ではユタ州とコロラド州まで分布している。 ツンドラやタイガ地帯の森林地帯に生息していて、針葉樹林から広葉樹林、混合林など、様々な森林環境に生息していて、河川や湖沼、湿地などにも生息している。 分布域が広いこともあり、ユーラシアに分布しているヘラジカを「エルク(Elk)」、北アメリカに分布しているものを「ムース(Moose)」と呼ぶことがある。 それらの語源についてははっきりしないが、「Elk」は古英語の「eolh」や古ノルド語の「elg」、原始ゲルマン語の「*elkh-」などから派生していると言われていて、ヘラジカや大型の有蹄類を指していたと考えられている。 また、「Moose」という言葉は、アメリカ先住民のアルゴンキン族の言葉で「小枝を食べる者」を意味する言葉に由来していると言われている。 但し、北アメリカや東アジアには体の大きいアメリカアカシカも生息していて「Wapiti(ワピチ)」と呼ばれているが、エルクとも呼ばれることもあるので混称に注意する必要がある。 ヘラジカの大きさ・特徴 ヘラジカはシカ科の仲間では最も体が大きく、アカシカに比べてもかなり大きい。 雄の体長は2.4~3.1m、雌でも2.3~3m程の体長があり、近くで見るとその大きさに驚かされる。 ヘラジカには幾つかの亜種が知られていて、体の大きさには変化があるが、アラスカに分布する最大の亜種・A. a. gigas では、雄の体重は700kgを超え、雌でも550kgを超えると言われている。 ヘラジカは全体にがっしりとした体つきをしていて、頭部は大きく、首も太い。 耳も大きく自由に動かすことができ、聴覚にも優れている。 尾はかなり短いが、これはあまり虫などを払いのける必要がないことや、体温の低下を防いでいるのだろう。 雄の首の下には肉腫と呼ばれる皮膚が垂れ下がっているが、雌では垂れ下がっていないものも見られる。 肉腫はウシ科のエランドなどにも見られるが、肉腫は体温調整などに役立っているのではないかと考えられている。 また、ヘラジカの上唇は下唇より長く、鼻先が垂れ下がっているのが特徴で、鼻孔は水の中などでは閉じることもできる。 角は雄だけがもっているが、名前のように、大きな手のひら状になっていて、これもヘラジカの特徴になっている。 この角は毎年冬に抜け落ちるが、次の春には新しい角が生えはじめ、繁殖期の頃には長さ1.2~1.5m程もある見事な角に成長する。 掲載している写真では成長途中の角だが、大きいものでは両左右の広がりが2m程にもなり、重さも30kgを超えると言われている。 毛色は一般に褐色や灰褐色、黒色などで、腹側は淡い色をしている。 若いものは赤みが強いが、ほかのシカ類のように白い斑などは見られない。 また、ヘラジカの毛は15~25cm の長さがあるが、ホッキョクグマのように中が空洞になっていて、寒帯での体温の低下を塞ぐ役目をしている。 ヘラジカの生態・生活 ヘラジカは、シカの中ではもっとも社会性が低いと言われていて、繁殖期以外はほとんど単独で生活している。 繁殖期には数頭が近くに集まることがあるが、子どもを連れた雌も群れをつくるようなことはない。 日中に活動するが、主に早朝や夕方に活発に活動し、休んでいるときは反芻などをしている。 草食性で、夏には落葉植物の葉や新芽を食べ、冬には植物の茎や小枝、樹皮などを主に食べるが、夏には水生植物なども食べ、ヘラジカは季節に応じて様々な植物を食べている。 ミネラル補給のため、時々塩舐めをしたり、夏季には寄生虫などから体を守るために、河川や沼などで水浴びや泥浴びをしている姿が見られる。 ヘラジカは餌を探して毎日移動するが、行動範囲は4~90平方kmと言われていて幅があるが、雄は雌よりもふつうは広い行動範囲をもっている。 繁殖期には樹木などに体などを擦りつけて匂い付けすることが多いが、普段は雌雄ともに特に縄張り意識は見られないとも言われている。 定住性が強く、季節的な移動はほとんどしないが、地域によっては季節移動するものも見られ、北アメリカのものは170km、ヨーロッパのものは300kmを超えて移動する個体群も見られる。 また、ヘラジカは体が大きいにもかかわらず、走るのは速く、時速55km程で駆けることができる。 森林の中でも巧みに駆け抜け、泳ぎもうまく、10km近い距離を泳ぐことができる。 外敵はオオカミやヒグマ、アメリカクロクマやピューマの他、アムールトラやアムールヒョウなどにも襲われることがある。 主に子どもや弱ったり怪我をしているものなどが狙われるが、親は大きな角と丈夫な蹄を使って子どもをよく守る。 ヘラジカの成獣は体が大きいこともあり、アムールトラやヒグマが主な外敵になるが、時にはヒグマを倒すことがある。 それでも、春先にはヒグマが子どもを襲うことが多くなり、オオヤマネコやコヨーテなども子どもを襲うことがあり、子どもは生後6週間ほどの間に半数以上が捕食されるとも言われている。 成獣も移動が困難になる積雪の多い冬にはオオカミの群れなどにも襲われることが多くなるが、成長すると、体が大きいこともあり生存率はかなり高くなる。 ヘラジカの繁殖・寿命 ヘラジカの繁殖期は9~10月頃で、繁殖はふつう一夫多妻で行われる。 しかし、ヘラジカの繁殖形態は他のシカ類とはやや違っていて、アラスカのツンドラ地帯に生息するものは、ほかのシカの様に一頭の雄か複数の雌を囲ってハーレムをつくるが、タイガ地方のものは、一時的なペアで繁殖するとも言われている。 ハーレムを形成する雄は、大きな角を突き合わせるなどして争い、優位な雄が雌を囲い込んで縄張りをつくるようになるが、一時的なペアでは、雄は1頭の雌と一緒にいてほかの雄から守っているが、交尾が終わると、他の雄とまだ交尾していない雌を探すようになると言われている。 これは生息環境のほか、行動範囲内の雌雄の比率なども関係しているのだろうが、このような繁殖の様子はアラスカに限らず、北米の他の地域やユーラシアでもしばしば見られるのだろう。 国内の屋久島や口永良部島などに分布しているヤクシカも、繁殖期にはハーレムをつくるが、その傾向は本州などに生息するものほど顕著でないとも言われていて、雄は必ずしも雌を囲い込まないとも言われている。 また、二ホンジカの雌は複数の雄とも交尾することがあるので、ヘラジカの繁殖も様々な様子があるのだろう。 いずれにしても、雌は妊娠期間230~240日程で、1産1子、時に2子を出産する。 生まれたばかりの子どもの体重は15~16kg程で、5ヵ月ほどの授乳期間がある。 1年ほどで独立した生活を送るようになるが、子どもは母親の次の繁殖までは一緒に生活している。 雌雄ともに2年ほどで性成熟するが、完全に成熟するには4~5年ほどかかり、その頃には雄の角も立派なものになっている。 飼育下での寿命は15~20年、長いもので25年ほどの寿命をもっている。 野生下での寿命は 8~15年ほどだが、中には20年ほどの寿命をもっているものも記録されている。 ヘラジカの保護状況・その他 ヘラジカはほとんどの地域で狩猟の対象になっていて、一部の地域では乱獲に近い狩猟が行われているが、全体としては個体数が安定していて、現在のところ絶滅の恐れはないとされている。 近年では、ヘラジカとの衝突による自動車事故がヨーロッパや北アメリカで多く起こっているが、その他の地域でも、耕作地の拡大に伴い、農業や林業の被害が生じるなどの問題が起こっている。 尚、ヘラジカは分布域が広いこともあり、次のような亜種が知られている。 Alces alces alces (European elk) ヘラジカの中では中型で、北欧やラトビア、 エストニアやロシア西部などに分布する基亜種 A. a. americana (Eastern moose) カナダ東部やアメリカ合衆国北東部に分布する小型亜種 A. a. andersoni (Western moose) カナダ西部やアメリカ合衆国北西部に分布する中型種 A. a. buturlini (Chukotka・East siberian elk) ロシア北東部やカムチャッカ半島などに分布する亜種で、ユーラシアではもっとも大きいと言われている A. a. cameloides (Ussuri・Amur elk・Manchurian elk) ロシア極東地方のアムール川やウスリー川流域に分布する小型種 A. a. gigas (Alaskan moose) アラスカ州とカナダのユーコン準州などに分布し、北米ではもっとも大きいとされている A. a. pfizenmayeri (Yakutia・Mid-Siberian elk・Lena elk) シベリア東部やモンゴル、中国北東部 A. a. shirasi (Shiras' moose・Yellowstone moose) アメリカ合衆国のコロラド州辺りまでのロッキー山脈に分布する最小種 A. a. caucasicus (Caucasian elk) コーカサス山脈を中心に分布していた亜種で、既に絶滅している |
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