テングザルは、ボルネオ島だけに分布しているオナガザル科のサルで、本種だけでテングザル属・1属1種を構成している。 身体的な特徴は、何と言っても特徴的な大きな鼻で、名前のように、天狗のような大きな鼻をしていて、遠くからでもよく目立つ。 成熟した雄の鼻は特に大きく、時には10cm程にもなり、顎の下まで垂れ下がっているものも見られる。 雌では小さくて短いが、前方に突出していて、やはり特徴的な顔立ちをしている。 また、体は雄の方が大きいが、雌雄共に尾は体長と同じくらい長い。 毛色は、頭部から肩、背中や上腕部にかけては栗色や赤褐色で、四肢や腹側などはクリーム色や淡い灰色など、白っぽい色をしている。 顔も赤っぽい色をしているが、尾の付け根は黒っぽく、頭部も背側に比べると暗色をしている。 テングザルは海沿いのマングローブ林や河川周辺の森林、湿地林などに生息していて、生息地は沿岸部や河川の周辺部に限られていると言われている。 時には標高350mほどの河川の上流部でも見られるが、いずれにしても、水から遠く離れたところでは見られない。 小さな群れで生活しているが、この群れは、ふつう1頭の雄と複数の雌、その子どもたちから構成されている。 時に単独でいるものも見られるが、その多くは若い雄で、まだ自分の群れをもてないものと言われている。 主として草食性で、マングローブの若葉など、木の葉類を食べるが、果実や花などのほか、無脊椎動物や昆虫類なども少しは食べる。 また、6月から12月の間は若葉が大部分を占め、1月から5月にかけては果実や花、種子などが採餌の多くを占めると言われていて、季節によって食べ物の種類や割合などは変化する。 木の葉類を主に食べることから、テングザルは、ウシのように大きくてくびれた胃をもっている。 しかし、反芻はしないと言われているが、霊長類の中では、唯一反芻するとも言われている。 日中に活動し、特に早朝には活発に動き回る。 ほとんど樹上生活していて、夕方になると水辺近くに戻ってきて、夜には樹上で休むが、夕方には群れ同士が集まって、30~60頭ほどの緩やかな群れをつくる。 朝になると、群れは再び分散して、小さな群れで活動するが、群れ同士の行動範囲は重複すると言われている。 食糧事情などによるが、1日に2km程を移動し、行動範囲は9平方km程度と言われている。 樹上での動きは敏捷で、長い尾でバランスを取って、巧みに枝から枝へと移動するが、テングザルは霊長類では珍しく、泳ぎも巧みで、しばしば川を泳いで渡ったりする。 指の間には、僅かだが水掻きがあり、時には十数メートルほどの高さの木の上から水の中に飛び込んで、川を渡ったりすることもある。 ところで、成熟した雄の大きな鼻は、食事のときに邪魔になることもあり、片手で鼻を押し上げて食べ物を口に運ぶ様子が見られる。 しかし、この大きな鼻は共鳴器の役目をしていて、大きな鳴き声を出すのに役立っていると言われている。 また、大きな鼻の雄ほど力も強く、多くの雌を群れの中にもっているとも言われている。 繁殖期は2~11月で、妊娠期間はおよそ166日程とされているが、長ければ200日の妊娠期間があり、平均すると半年程度と考えられている。 出産は樹上で行われ、雌はふつう1子を出産する。 生まれたばかりの子どもの顔は青い色をしているが、2ヶ月半ほどで灰色になり、8ケ月を過ぎるころには、大人のように赤っぽい色になっていく。 半年ほどで固形食を食べるようになり、7ヶ月ほどで離乳するが、1年ほどの間は母親の近くで生活している。 その後、雌は出生した群れに留まるが、雄は1年半ほどで群れから離れていき、自分の群れをもてるまでは、若い雄だけの群れをつくるか単独で生活している。 雌は4年程で性成熟するが、雄は完全に性成熟するには7年程かかると言われている。 飼育下での寿命は20年程度で、具体的な外敵は分かっていないが、ヒョウやシャムワニなどに襲われると考えられている。 この他、農地開発や森林の伐採、近年ではマングローブ林からエビの養殖池への転換などにより生息地が減少し、テングザルの生息数も激減している。 現在、国際自然保護連合のレッドリストに絶滅危惧種(EN)として指定されているが、テングザルは生息環境が限られているので、更なる個体数の減少が心配されている。 オナガザル科の動物へ / このページの先頭へ |
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テングザル