ムフロンは小型の野生ヒツジで、家畜化されたヒツジの原種と考えられている。 雄には見事な角が見られるが、雌の角は痕跡程度しか見られない。
ムフロンの分布域・生息環境 ムフロンは、地中海のキプロスやトルコ南東部、アルメニア、アゼルバイジャンなどの小コーカサス山脈、イラン西部のアルボルズ地方、イラク東部とイラン西部にまたがるザグロス山脈などに生息している。 現在はドイツやスペイン、スイスなど、ヨーロッパ各地にも広く導入され、野性化しているものも多く見られるが、これらは古くにイタリアのコルシカ島やサルジニア島などに導入したものを再移入したものとされている。 また、南米のチリやアルゼンチン、北アメリカなどにも導入されているが、これらの中でも野生種は極めて稀で、オオツノヒツジや家畜のヒツジとの交雑も見られる。 ムフロンの大きさ・形態 ムフロンは家畜として世界中で広く飼育されているヒツジの原種のひとつとして考えられているが、体高は70~80cm程度で、野性のヒツジの中ではもっとも体が小さい。 大きい雄では体長1.4m、70kg程の体重があるものも見られるが、北アメリカに分布しているオオツノヒツジに比べるとふた周りほども小さい。 いくつかの亜種が知られていて、毛色には多少違いがあるが、多くは赤茶色や茶褐色、黒褐色などで、冬には黒っぽくなる。 腹部と四肢の半分は白っぽく、目の周りや口の周りなども白くなっている。 また、完全に成長したほとんどの雄には、背中にサドル状の白い部分が見られる。 ムフロンには雌雄ともに角があるが、雌のものは痕跡程度か、あっても非常に小さいものしか見られない。 しかし、成獣の雄の角は渦巻状にひと回りし、大きなものでは1メートル近くにもなる見事なものである。 一見してアフガニスタンなどに分布しているマーコールに似た感じがするが、マーコールはヤギの仲間で、角の形も違うし、体もムフロンよりも大きい。 ヒマラヤタールにも似ていないでもが、やはり角の形などが違っていて、ムフロンの雄にはタテガミなどは見られない。 ムフロンの生態・生活 ムフロンは山岳地帯の岩の多い斜面などに生息していて、崖のようなところでも見られる。 草原や岩場、砂漠などが混在しているような環境を好み、標高3000m程のところでも姿が見られるが、標高5000m辺りにも生息しているとも言われている。 多くは50~100頭程の群れで生活しているが、普段は雌雄が別のグループをつくっていて、雌の群れには子どもが含まれている。 雄の群れは雌の群れよりも小さく、群れの内では角の大きさが順位を決める大きな要素になっている。 完全に成熟した雄は気が荒くなり、ほかの雄としばしば争うことがある。 ムフロンは昼間に活動し、草や木の葉などの植物質のものを食べるが、日中は休んでいて、早朝と夕方に活発に活動する。 また、夏は標高の高いところで生活しているが、気温が下がり、食料が乏しくなる冬季には標高の低いところに降りてくる。 ムフロンは険しい山岳地帯に生息しているため、外敵はあまりいないが、時にはオオカミやヒョウ、オオヤマネコなどに襲われることがある。 しかし、ムフロンは警戒心が強く動きも敏捷で、傾斜の急な斜面や岩場でも簡単に登ってしまい、多くは子どもや弱ったものが狙われる。 ムフロンの繁殖・寿命 ムフロンの繁殖期は晩秋から初冬にかけて見られ、この時期の雄は雌をめぐって争う様子が観察される。 群れの中の優位な雄が雌を獲得し、雌の妊娠期間は150日前後で、1産1子、時に2子を出産する。 生まれたばかりの子どもは、生後しばらくすると立ち上がることができる。 雌雄ともに2~3年ほどで性成熟するが、雄は優位な地位を得るまでには、更に3~4年はかかると言われている。 飼育下での寿命は15~20年ほどだが、野生下での寿命はそれよりも短く、8~10年程度と言われている。 ムフロンの保護状況・その他 ムフロンは、かつてはクリミア半島やバルカン半島などにも分布していたとされているが、それらのものは3000年前には消えてしまったと考えられている。 また、近年では生息地の開発や家畜の放牧地の拡大などによって、ムフロンの個体数は減少している。 現在、国際自然保護連合(IUCN)では、ムフロンを1種として扱い、準絶滅危惧種(NT)としてレッドリストに指定しているが、家畜種との交雑なども懸念されている。 このほか、ムフロンの分類は複雑で、学名なども幾度か変遷している。 パキスタンやインド、トルコの一部にも亜種が分布しているとも言われているが、概ね次の亜種が認識されている。 Ovis gmelini gmelini (Armenian mouflon / Armenian red sheep) イラン北西部、アルメニア、アゼルバイジャンなどなどに分布する基亜種 O. g. isphahanica (Esfahan mouflon) イランのザグロス山脈 O. g. laristanica (Laristan mouflon) イラン南部 O. g. ophion (Cyprus mouflon) キプロス また、亜種とされていたヨーロッパの森林地帯に生息する O. g. musimon (European mouflon) は、現在では家畜が野生化したものと考えられていて、Ovis aries musimon とされている。 尚、家畜としてのヒツジは紀元前6000年頃にムフロンなどを原種として改良されたものだと考えられているが、最初に家畜化されたヒツジは、サルデーニャ島とコルシカ島に導入されたムンフロンの群れであったとも考えられている。 また、以前はムフロンの亜種(Ovis orientalis vignei)と考えられていたヒマラヤ山脈に分布しているウリアルは、現在は独立種・Ovis vigneiとして捉えられている。 |
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