アジアスイギュウは単にスイギュウ、時にインドスイギュウとも呼ばれ、インドから東南アジアにかけて広く分布している。 しかし、アジアスイギュウは古くから家畜化されていて、真の野生種の分布域は限られていて、固定数も少ない。
アジアスイギュウの分布域・生息環境 アジアスイギュウは、アフリカスイギュウとは異なり古くから家畜化されていて、インドやネパールからベトナム、マレーシアにかけて広く分布している。 低地から山地にかけて生息しているが、ネパールでは標高2800m辺りでよく見られる。 しかし、真の野生種は少なく、インドとネパール、ブータンとタイの一部に生息しているだけだと考えられている。 野生種、家畜種ともに森林や湿地に生息しているが、名前のように水と密接した生活をしていて、水辺から遠く離れたところでは見られない。 また、家畜種や家畜が再野生化した個体群が中国やアルゼンチン、オーストラリア、一部の地中海地方などにも定着しているが、ミャンマーとカンボジアの一部にも、真の野生種が残っていると言われている。 アジアスイギュウの大きさ・形態 アジアスイギュウはウシ科の中では体が大きく、体長240~300cm、肩高は1.5mを超え、1.9m程のものもいると言われている。 体つきもがっしりとしていて重々しく、家畜種の体重は250~550kg程度と言われているが、野生のものは雄で1000kgほどの重さになる。 雌はやや小さいが、それでも750kg程の重さになり、大きい雄では体重1200kg程のものも見られる。 角は三日月型の大きなものを雌雄共にもっているが、この角はウシ科の中では最も大きい方で、広く広がっている。 平均して1m程の長さをもつ立派なもので、断面は三角形をしている。 また、角も雌の方が雄よりも小さいが、アジアスイギュウの角はアフリカスイギュウの角のように基部が引っ付かず、離れている。 成獣では被毛がほとんどないが、毛色は暗灰色、灰黒色、黒色などをしている。 しかし、ふつうは泥を被っているので、毛色を確認することは難しい。 また、しばしば喉に三日月状の白い斑が見られたり、四肢の下部が白っぽかったりするが、これには個体差がある。 アジアスイギュウの生態・生活 アジアスイギュウは森林や背の高い草地などに生息しているが、水に大きく依存した生活をしていて、河川周辺や湿地、沼地などの湿った環境を好み、森林や草地、川や沼などが入り混じったような環境に生息している。 多くの時間を泥浴びをして過ごしていて、水と植物の豊富なところに生息している。 幅広い蹄は沼地や湿地での生活に適していて、湿地や泥の中でも深く沈み込むようなことはない。 繁殖期以外の乾季は、雌やその子どもからなる10~30頭程の群れで生活していて、年長の雌が群れを率いている。 この群れのには1~2頭の雄が見られることもあり、時に100頭程の大きな群れをつくることもある。 また、繁殖期以外は、若い雄は互いに集まって10頭程の群れを形成している。 年老いた雄は単独で生活しているものも見られ、雌を中心とした群れの中にいることもある。 アジアスイギュウは昼夜共に活動するが、日中は反芻などをして休んでいることが多く、早朝や夕方に採食することが多い。 食性は草食性で、草や木の葉、茎や樹皮、水生植物などを食べるが、イネ科のものを好み、時には耕作地で穀類などを食べることもある。 スイギュウの仲間は泥浴びや水浴びを好み、昆虫などの害から皮膚を守るために泥の中を転げたり、目と鼻だけを出して水中に全身を沈めたりする習性がよく知られている。 これは、スイギュウには汗腺が少なく、他のウシ科の動物に比べると熱に敏感で、体温調整の為にも泥や水の中に入っている。 泥の中は水の中よりも冷却効果が高いことから、好んで泥の中に入るが、この為に体色は常に泥の色が混ざっている。 外敵はインドライオンやベンガルトラ、ヒマラヤグマやドール、イリエワニなどだが、スイギュウは体も大きく力も強い為、実際の外敵はほとんど見られず、唯一の外敵はベンガルトラと言われている。 しかし、アジアスイギュウの角は極力な武器になっていて、トラを死亡させてしまうことも知られている。 その為、トラもうかつに成獣を襲うようなことはしない。 稀に弱ったものや幼獣などが襲われ、ヒマラヤグマやイリエワニもアジアスイギュウを倒すことが知られているが、インドライオンはインド北西部のグジャラート州の保護区だけに生息していることもあり、アジアスイギュウが出合うことはほとんどない。 アジアスイギュウの繁殖・寿命 アジアスイギュウに決まった繁殖期は見られず、一年を通して繁殖する。 しかし、地域によっては雨季の後に多く見られ、繁殖は一夫多妻で行われる。 繁殖は、雄の群れが雌の群れの中に入って行って行われるが、雄は交尾の後には群れから追い出され、再び雄だけの群れに戻っていく。 雌の妊娠期間は長く、300~240日程で、ふつうは1産1子だが、時に2子を出産することもある。 生まれたばかりの子どもの体重は35~40kg程で、育児は雌が行い、6~7か月ほどの授乳期間がある。 雌は2年、雄は3年ほどで性成熟するが、雌はその後もしばらくは親の群れに残っているが、雄はその頃には若い雄の群れの中に入って行く。 アジアスイギュウの野生下での平均した寿命は12~18年程と言われているが、長いものでは25年ほどの寿命をもっている。 飼育下での寿命は野生下よりもふつうは長く、25~30年程度と考えられている。 アジアスイギュウの保護状況・その他 アジアスイギュウはおよそ5000年程前から家畜化されていたと言われているが、家畜としてのスイギュウは極めて有益で、現在でもアジア各地などで農耕や荷物の運搬などの使役に広く役立っている他、乳を摂ったり、肉や革、角なども利用されている。 しかし、自然分布する真の野生のアジアスイギュウは、開発による生息地の減少などによって生息数が激減している。 現在、野生のアジアスイギュウは国際自然保護連合(IUCN)の保存状況評価によって絶滅危惧種(EN)としてレッドリストに指定されているが、密猟も後を絶たず、家畜種との交雑の問題も起こっている。 一方、オーストラリアなどでは飼われていたものが遺棄されたり逃げ出したりして、これらが再野生化している問題なども挙げられている。 また、アジアスイギュウは、かつて東はマレー半島からインドシナ、西はインド中央部からネパール南部にかけて分布していたと考えられているが、スイギュウは家畜としての歴史が古いこともあって、現在自然分布するとされている野生のスイギュウが元来の野生種か、ヒトコブラクダのように野生種は既に絶滅していて、家畜のものが再野生化したものであるかなど、詳しいことも分かっていない。 尚、アジアスイギュウには、 B. a. arnee B. a. fulvus B. a. septentrionalis B. a. migona の亜種がいると言われている。 また、アジアスイギュウの野生種を Bubalus arnee(或いはBubalus arni)、家畜化されたものは Bubalus bubalis とされることもあり、更に家畜種を B. b. bubalis と B. b. carabanesis の2亜種に別けることもある。 |
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アジアスイギュウ(スイギュウ)