ブタはイノシシを改良した大切な家畜として利用されているが、イノシシはアジアやヨーロッパなどのユーラシア大陸南部に広く分布し、国内でも馴染みのある動物としてよく知られている。
イノシシの分布域・生息環境 イノシシはヨーロッパからアジアにかけてのユーラシア大陸や北アフリカに広く分布していて、国内にも本州から南に亜種・二ホンイノシシやリュウキュウイノシシが分布している。 分布域が広いこともあり、サバンナや森林、低木林や湿地、耕作地周辺など、イノシシは様々な環境に生息している。 北アメリカなどにも広く導入されていて、水源近くの植物の多い環境で多く見られるが、イノシシは極度の暑さや寒さを避ける傾向があり、冬に積雪が多く、地面が凍るようなところでは見られない。 イノシシの大きさ・特徴 イノシシは分布域が広い為、地方によって多くの亜種が知られている動物で、体の大きさもかなりの差異がある。 一般に、乾燥地などに生息しているものは、食料の豊富な地域のもの比べると体が小さいと言われているが、平均した大きさは、体長150~200cm、体重65~230kg程で、体は雄の方が大きい。 また、ヨーロッパに分布しているものよりも北東アジアに分布しているものの方が体が大きく、大きいものでは体長が200cmを超え、肩高は110~115cm、体重も270kgほどになるものもいる。 ウスリー地方や中国北東部などのものは、それを超えるものも報告されていて、体重も300~350kgでヒグマほどの大きさがある。 国内に分布するニホンイノシシでは、平均した体長は140cm前後、尾の長さ20~30cm、80~180kg程の体重がある。 体つきは楔型のような特徴のあるもので、体高は肩の部分が最も高く、後ろ足に向かって低くなっている。 鼻先も特徴的で、鼻面は真っ直ぐに突き出したような感じで、鼻先は平たくて丸くなっている。 また、イノシシの上顎の犬歯は大きく、長さは5~10cm程もある。 特に雄では強力な牙となっていて、口を閉じていても牙が見えることが多い。 毛は厚くて粗く、毛色はふつう茶色や茶褐色、黒褐色などで、背中の正中線上に長い剛毛(タテガミ)が生えているものも見られる。 また、幼獣はウリボウとよばれ、バクの子どものように体に縞模様がある。 イノシシの生態・生活 イノシシは平地から低山帯にかけての森林や雑木林、草原や藪地などに生息しているが、サバンナや湿地など、さまざまな環境に適応している。 成熟した雄のイノシシは単独で暮らしているが、雌は子どもと一緒に家族単位の群れをつくって生活している。 この群れは複数の雌とその子どもたちからなっていて、ふつうは数頭から20頭ほどだが、多いものでは50頭程にもなる。 イノシシは昼間に活動するが、日中は休んでいることが多く、早朝や夕方に活発に動きまわる。 また、人間との接触が多いような地域では夜行性になる傾向が強い。 行動範囲は1~4平方km程と言われているが、行動範囲は食糧事情や群れの大きさ、生息環境などによって変化する。 雌の群れの行動範囲は雄よりも狭く、他の雌の群れとある程度重なっている。 また、雄の行動範囲も他の雄と重なっていることがあるが、繁殖期には縄張り意識が強くなる。 主にクズやカヤ、ヤマイモなどの地下茎やタケノコ、果実、ドングリなど、植物質のものを食べ、しばしば耕作地で農作物を食べたりする。 また、イノシシは雑食性でミミズやカエル、ヘビやトカゲ、サワガニなどの他、昆虫類などの動物質のものも食べる。 鳥の卵や小型のげっ歯類、時には死肉なども食べ、季節と環境に応じて様々なものを食べている。 日中に採食するときは、見通しのよい開けた場所を避ける傾向があるが、イノシシは水場が近いところを好み、水浴びや泥浴びをする習性がある。 泥浴びのあとは体を樹木にこすり付けたりするが、これは体についた寄生虫を除くためなどと考えられている。 嗅覚に優れ、主に地中にある動植物を探し出して食べる為、雪の多いような地域や高山には生息しない。 この為、雪の多い時期や生息域の食物が少なくなると、人の生活圏にも入ってきて、畑などを荒らしたりもする。 この他、イノシシは力が強く、特に突進力はかなりの威力をもっている。 走るのも速く、時速45km程で駆けることができると言われていて、1m程度の高さのものなら走ることなく飛び越えてしまう。 泳ぎも巧みで、思っている以上に運動能力は優れている。 元来は非常に神経質な動物で、見慣れないものなどを見かけると避けようとする習性があるが、不用意に近づいたりすると、時には人に向かってくることがある。 この時、イノシシは直進的に突き進んでくると思われているが、これは誤りで、他の動物のように急停止することも途中で向きを変えることもできる。 国内でも、里山や山道で出会ったりするが、雄では強力な牙を持っているので、無闇に近づいたりするのは危険である。 外敵はトラやヒョウ、ユキヒョウやオオカミ、クマなどで、幼獣はキツネやオオヤマネコなどに襲われることもある。 また、イノシシは狩猟動物の対象にもなっているが、国内では食用として広く流通することはない。 イノシシの繁殖・寿命 イノシシは一年を通して繁殖するが、分布域が広く、地域によって繁殖期には変化がある。 繁殖には天候や食糧事情などが影響すると考えられていて、一年に1~2回繁殖する。 繁殖は一夫多妻で行われ、雌の妊娠期間は108~120日程で、1産3~12子だが、ふつうは4~5子を出産する。 出産は群れから離れたところで行われ、地面の窪みなどを利用して巣がつくられる。 出産用の巣は、木の枝などを利用して覆いのあるものをつくるが、冬場の巣も覆いのあるものがつくられる。 生まれたばかりの子どもは400~800g程で、バクの子どものように、体には横縞が見られる。 育児は雌だけが行い、子どもは8~12週ほどで離乳する。 体に見られる縞は4ヵ月から半年程でなくなって、親と同じような均一な毛色になる。 雌雄ともに1年ほどで性成熟するが、完全に成獣に成長するには5~6年はかかると言われている。 また、雌は出生した群れに留まることが多いが、雄は性成熟する1年か2年ほどの内には群れを離れていく。 寿命は飼育下で15~20年程度、野生での詳しい寿命は分かっていないが、6~10年程度と考えられている。 イノシシの保護状況・その他 イノシシは自然分布域の他、北アメリカやオーストラリアなどにも移入されていて、南極大陸を除くすべての大陸に分布している。 その為、絶滅の心配はなく、逃げ出したものが再野生化している地域もあり、むしろイノシシの分布域は広がっている。 国内では、近年の開発による生息地の減少などが影響して、人家の近くに姿を現すことも多くなっている。 都市近郊の住宅地などでも見られることがあり、食料品をもった買い物客がイノシシに襲われるといったことも起こっている。 餌を求めて田畑などを荒らすこともあるが、イノシシは群れで活動する為、被害は大きいものとなってしまい、害獣として捕獲、駆除されることもある。 尚、国内にはニホンイノシシのほか、奄美・琉球諸島に分布する亜種・リュウキュウイノシシが知られているが、イノシシには次の亜種が知られている。 Sus scrofa scrofa (Central European boar) ヨーロッパの大部分に分布する基亜種で中型 S. s. algira (North African boar ) チュニジアやアルジェリア、モロッコなどに分布するが、基亜種と同じとする意見もある S. s. attila (Carpathian boar) 基亜種より体が大きく、ルーマニアやハンガリー、ウクライナやバルカン半島、カスピ海沿岸やイラン北部などに分布 S. s. cristatus (Indian boar) インドやネパール、スリランカやビルマ、タイ西部など S. s. davidi (Central Asian boar) インド北西部からイラン南東部 S. s. leucomystax (Japanese boar) 国内に分布する亜種(二ホンイノシシ)で、イノシシの中ではやや体が小さい S. s. libycus (Anatolian boar) 小型の亜種で、トルコや旧ユーゴスラビアなど S. s. majori (Maremman boar) イタリア中部に分布するが、基亜種と同じとする意見もある S. s. meridionalis (Mediterranean boar) 小型の亜種で、タテガミのないものが多い。コルシカ島やサルデーニャ島 S. s. moupinensis (Northern Chinese boar) 中国沿岸部からベトナムなどに分布しているが、変異が大きく、別亜種が含まれているとも言われている。 S. s. nigripes (Middle Asian boar) カザフスタンなどの中央アジアやモンゴル西部など S. s. riukiuanus (Ryukyu boar) リュウキュウイノシシ。奄美諸島や沖縄諸島など S. s. sibiricus (Trans-Baikal boar) 小型の亜種でモンゴル北部やバイカル湖周辺 S. s. taivanus (Formosan boar) 台湾に分布する小型亜種 S. s. ussuricus (Ussuri boar) ロシア沿海地方や中国北東部に分布する最大亜種 S. s. vittatus (Banded pig) マレー半島やインドネシアに分布する小型の亜種で、別種との検討もされている |
|
●その他のイノシシの写真ページへ ●イノシシ科の動物へ ●このページの先頭へ |
Private Zoo Gardenは、国内の動物園で会える動物たちを紹介している、インターネット動物園です。 今後とも園内の充実を図っていく予定ですので、動物図鑑や写真集などとして、是非利用してください。 |
イノシシ